肝硬変の注意すべき合併症のなかで、患者の生活の質(QOL)を著しく損なうのが腹水です。又、肝硬変だけでなく、胃癌は大腸癌などの消化器系の癌や急性膵炎などでも腹水が発症します。大量の腹水(中には10Lを超える)により、呼吸困難、便秘、尿量減少や腹部膨満感により食欲不振が起こることがしばしばです。腹水は患者のQOLの低下につながるのみならず、原因不明の細菌性腹膜炎を引き起こし、命に関わる場合もあるので、その対策は重要です。
- 腹水の治療では水分制限(1L/日以下)と塩分制限(5~7g/日)、次いで利尿剤(アルダクトン、ラシックスなど)の内服又は注射、そして低アルブミン血症(2.5g/dl未満)に対しては、アルブミンの点滴静注が有効です。
- 難治性腹水の治療では、腹水濾過濃縮再静注法(CART)が注目されています。保険認可もされており、当院でも多くの患者に適用され、効果を上げています。
- CARTとは、腹水を腹腔から抜き、細菌や癌細胞を取り除き、濃縮された腹水は有用な蛋白成分(アルブミン)を含むため、再度体内に戻す治療です。時に発熱、嘔吐、血圧低下などの副作用もありますが、当院では重篤なものは経験していません。
- その他、難治性腹水に対して、腹膜-静脈シャント(デンバーシャント)、経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)などが治療法としてあります。ただTIPSは、先進医療で、厚生労働大臣に承認された医療機関でのみ実施可能であり、まだ保険認可されていません。
腹水濾過濃縮再静注(CART(カート)療法)について
Cell-Free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy
CART療法は、難治性腹水症の治療法の一つで、腹水を腹腔から抜いて、それを濾過、濃縮して体内に再静注する治療法です。治療を行う際は入院を必要とします。
- 腹水採取
腹水を専用の貯留バックに取りだします。1回当たり3000mlを目安とし、約1~2時間かけて抜きます。 - 腹水濾過濃縮処理
貯留バックを透析室で濾過処理し、細菌や癌細胞などを取り除き除水し、アルブミンなどの有用な物質を濃縮します。濾過濃縮に要する時間は腹水の性状や量によって異なりますが、平均1~2時間で約10倍に濃縮されます。 - 再静注
濾過濃縮処理後の腹水を静脈注射により約1~2時間かけて体内に戻します。
・腹部膨満感など自覚的苦痛が軽減されるなど、患者さまのQOLが向上します。
・自己腹水を濃縮することにより、アルブミン製剤の節約が可能となります。
・難治性腹水症の患者さんに対し、2週間に1回、保険診療が認められています。
・当院で1泊2日の入院でこの治療を行った場合、3割負担の方で約5万円(入院費、諸検査含む)の費用がかかります。
*治療内容によって費用はかわります。